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    今頃になつて、男はさう訊き、盛子がそれに答へる前に、ひとりでうなづいていた。

    「おつ」

    しばらく黙つていた後で、房一は

    「はあて、神主さんになるのもえらいもんだのう」

    「どうして?血はつゞいていなくてもこゝの家とは親類ぢやありませんか」

    と生返事をしながら、大工の口にした高間医院といふ名前が耳新しく響いたので、房一は思はず微笑した。

    「どうもこれぢや――」

    「もう河原町へは当分帰る気はないんですかね。貴方にお貸したところをみると」

    「徳次」だの、「橋本屋」だの、「殺されかゝつてる」、「小倉組」だのいふ言葉がきれぎれに耳に入つた。

    その空地の隣りに低い築地塀ついぢべいをめぐらした家がある。築地はもう何十年かあるひはもつと前に造つたものらしく、所々の壊れた荒壁を後から後から塗りなほした箇所がそれぞれ違つた土の色をして、それさへ剥はがれかゝつている。だがその築地の内側にある家はこれも外まはりに劣らず古い低い平家で、外から見ると、築地の上にそのだゝつぴろい大きな屋根がまるで、伏せをした恰好に見えるきりだ。そんな風にかこまれているので、外部から覗かれる家の有様と云つたら、ちやうどそこだけ築地が中に向つて露地のやうな様子で切れこんでいる家正面の入口だけだつた。それも、今ではよほど田舎へでも行かないと見られないやうな、広い黒ずんだ欅板けやきいたの式台と、玄関の障子の両側には黒塗りの横桟の入つた脇戸までがついた、恐しく奥まつた、人間で云ふと極端に内気な独身の四十男のやうな様子をしていた。

    「ジョン、降りろ」

    「まあ、葉書でざつと町内に出しときましたがね」

    「三人どころぢやない、五人も十人もある」

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